営業秘密の定義例~裁判例から

誓約書における営業秘密についての定義について、裁判例から考えます。
いわゆるNDAであったり委託契約書等中の秘密保持条項における秘密情報の定義については、秘密指定するしない、幅広にするしないなど、慣れているリーガルパーソンであればよくわかる話かと思いますが、

対従業員・退職者においては広範にしすぎると特に退職者側の権利制約(職業選択の自由、営業の自由)となり無効リスクがあるため、以下では、主に退職者誓約書において営業秘密が問題になった裁判例を並べます。もっとも、現実には秘密管理性なども問題になりますが、以下では、最近の裁判例から、誓約書等でどのような営業秘密の定義がなされ、その有効性がどのように判断されたかを雑記します。

東京地判令和6年2月26日金融・商事判例1695号44頁(刑事)

  • F社の従業員らが入社時及び退職時に徴求される各誓約書では、両者で若干の相違はあるものの、保持すべき秘密として、「製品開発、製造及び販売における企画、技術資料、製造原価、価格決定等の情報」、「仕入に関する事項」等が例示されていた。
  • 営業秘密該当性肯定
  • 控訴審である東京高判令和6年10月9日でも、一審判決が支持(裁判例本文は入手未済) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE041X70U4A001C2000000/

札幌高判令和5年7月6日労働経済判例速報2529号7頁(刑事)

  • 本件情報は、DのA社やC社に対する販売実績やB社から仕入れた原価等の情報であり、商品名や、取引ごとの販売価格、仕入価格、粗利等が含まれている
  • 一審(札幌地判令和5年3月17日労働経済判例速報2529号13頁)では営業秘密該当性が肯定された
  • 二審では有用性は認められたものの秘密管理性が否定

東京地判令和5年5月10日

  • 誓約書1の文言
     2.私は、在職中はもとより、退職した後も、在職中に知り得た個人情報を含む一切の秘密情報及び会社の利益保護のために秘密としておく必要がある情報(以下、「秘密情報」という)について、いかなる第三者にも開示・漏洩しないことを誓約します。また、会社が入手した取引先、関係・関連会社及び第三者の秘密情報に関しても同様とします。
      3.前項の他、秘密情報や業務上知り得た特別の知識を利用した競業的行為を避止すべき義務を負うことを誓約します。
  • 誓約書2の文言
    2.在職中に知り得た下記の秘密情報について、業務遂行中はもちろん、退職後5年間は会社の許可なく、使用、及び、第三者に開示もしくは漏洩致しません。
      1) 職務上知り得た営業上の情報、技術上の情報、及び知的財産権に係る情報
      2) 人事、財務等に関する情報
      3) 個人に関する情報
      4) 会社の利益保護のために秘密としておく必要がある情報
      5) 会社との業務提携等、会社の企業戦略上重要な情報
      6) その他、会社が秘密保持の対象として指定した情報
      (但し、会社が書面により公表を承諾した情報及び業務に従事した時点ですでに公知の情報を除く)
      4.会社を退職することになった場合は、会社の業務を遂行するに当たり使用、作成し、又は管理していた、秘密情報の含まれた書面、データ等が記録及び記憶されている媒体その他一切の資料及びその複製物をすみやかに返却するか、会社の指示に従い消去または廃棄致します。
  • 誓約書1の有効性は限定的。
    誓約書1は、前記認定事実のとおり、原告の従業員であった被告Y2に対し、退職後も期間の定めなく、「秘密情報」や「業務上知り得た特別の知識を利用した」競合的行為を避止すべき旨を規定している。このような規定は、原告とその従業員との雇用契約が終了して、両者間に何らの継続的な契約関係が存在しない状態になった後に、当該従業員が本来自由に行うことのできる事業の実施や第三者との雇用契約の締結を制限しようとするものであり、当該従業員の退職後の職業選択の自由に重大な制約を加えるものといえる。他方で、職業選択の自由に対し制約を加えられる従業員に対して、原告が何らかの代償措置を講じていたことを窺わせる事情も見当たらない。しかるに、避止すべき競業的行為を画する「秘密情報」や「業務上知り得た特別の知識を利用した」との文言については、一義的に明確であるとはいいがたい。このような本件誓約書1の趣旨及び内容並びに本件誓約書1が差し入れられた時期等に照らして考えると、本件誓約書1にいう「秘密情報」については、公序良俗に反して無効とならないために、従業員が本件誓約書1の差入れ時において秘密情報に該当することを合理的に想定可能であったもの、又は差入れ後において従業員が認識可能となる措置を講ぜられたものであることのほか、公然と知られていないものであることや、原告の業務遂行にとって一定の有用性を有するものであることを要すると限定的に解すべきである。
     本件誓約書1にいう「業務上知り得た特別の知識」についても、避止すべき競業的行為を画する点において「秘密情報」と同様であるから、やはり限定的に解すべきである。
  • 誓約書2はまあ有効
     本件誓約書2は「在職中はもちろん、退職後5年間は会社の許可なく」在職中に知り得た秘密情報について、第三者に開示等をしないというものであり、開示が禁止される「秘密情報」については、その例示として1)から5)までの各情報が規定されているところ、6)においては「その他、会社が秘密保持の対象として指定した情報」が規定されている。秘密保持義務を定める特約は、その性質上、退職する労働者の職業選択の自由に対する過度な制約となるおそれがあることから、その対象等を限定して解釈すべきである。そして、本件誓約書2における秘密保持の対象が「秘密情報」であり、また、包括的な規定である6)において使用者である原告が秘密情報として「指定する」ことが前提とされていることに照らすと、本件誓約書2にいう「秘密情報」についても、本件誓約書1にいう「秘密情報」と同様に解釈すべきであり、その限りで本件誓約書2は有効であるといえる。
  • 具体的に秘密情報に該当する情報は
     本件誓約書1及び本件誓約書2にいう「秘密情報」の範囲について、原告は、前記第2の3(1)【原告の主張】イ(ウ)のとおり、電力需給管理ソフトウェア開発ノウハウ、電力需給管理ソフトウェアの〈1〉要件定義・基本設計・詳細設計、〈2〉ソースコード、〈3〉デバッグの方法に関する知識、〈4〉電力管理に特化した外部情報の取込みや出力に関する製品知識、〈5〉受託開発からパッケージソフトウェアの開発・運用・改善過程における知識、〈6〉客先のフィードバック及び改良要望、〈7〉電力需給管理ソフトウェアの販売・賃貸実績があること、〈8〉K機関との接続によるデータの送受信のノウハウ・実績、〈9〉電力需給管理に関するAPIのノウハウ、〈10〉対向試験の実績・ノウハウ、〈11〉情報処理の流れ、データベースへの情報の格納・取出方法、ユーザーインターフェース、操作方法に関するノウハウ及び顧客情報までの情報やノウハウ等のほか、顧客情報、営業情報、顧客の内部情報(特に電力完全自由化に向けての対応状況についての情報)も含まれる旨、さらに、原告の顧客についての〈ア〉本件原告ソフトウェアを使用していること、〈イ〉サブスクリプション取引をしていること、〈ウ〉原告との契約金額、〈エ〉改善要望、〈オ〉システムに関する委託業務の需要があることに関する各情報のほか、〈カ〉被告Y2の退職によって原告に代替要員が必要になることに関する情報も含まれる旨の各主張をする。これらのうち〈1〉及び〈2〉については、原告会社の製品に関するものである限り、その性質上、公然と知られていないこと、原告の業務遂行にとって一定の有用性を有すること、従業員が秘密と明確に認識し得るものであったことを推定することができ、被告Y2及び被告X3が原告に差し入れた本件誓約書1及び本件誓約書2にいう「秘密情報」に該当するといえる。
      他方で、上記〈1〉又は〈2〉以外のものについては、「秘密情報」である「知識」の範囲が抽象的であったり、ノウハウや実績といった漠然としたが概念が用いられていたりする点で、客観的に見て、被告Y2及び被告X3おいて「秘密情報」であると直ちに認識し得るものであるということができない。
     本件誓約書1にいう「業務上知り得た特別の知識」について、原告は、顧客情報、営業情報、顧客の内部情報(特に電力完全自由化に向けての対応状況についての情報)が含まれる旨の主張をする。しかし、前記アと同様の理由により、原告主張に係る上記各情報が「業務上知り得た特別の知識」に該当するとはいえず、原告の主張は採用することができない。

東京地判令和4年10月28日

  • 被告は、原告の在職中、少なくとも被告が原告の従業員として担当して知り得た、Dらの氏名及び電話番号について、CのFに対し、Dらが不動産購入可能な人物として、漏えいした上、Dらに投資用不動産購入の提案をし、Cから、不動産コンサルティング報酬名下に合計400万円を得たと認められるから、被告は、在職中に競業行為を行い、競業避止義務に違反したと認められる(なお、秘密保持義務にも違反している。)。
      そうすると、被告の上記競業行為は、本件雇用契約に基づく競業避止義務に違反するものとして債務不履行を構成するとともに、不法行為を構成し得るものといえる。
  • 第28条(秘密情報保持義務)
      従業員は、在職中又は退職後においても会社のノウハウ、技術情報等の営業秘密のほか、従業員及び関係者の個人情報、特定個人情報、職務上知り得た秘密、プライバシー及びスキャンダル情報等いかなる情報であっても第三者に漏洩、開示、提供又は不正に使用してはならない。
  • 就業規則上の守秘義務の対象秘密情報の定義はあいまいだったが、被告の行為がずばりだったため、義務違反が認定されていると思われる。

東京地判令和4年10月5日裁判所ウェブサイト掲載判例

  • 原告の行動規範「10.2 秘密情報には、クラリアントの事業活動、技術、知的財産、財務状況および従業員に関する情報、ならびにクラリアントの顧客、供給業者(サプライヤー)およびビジネス・パートナーに関するすべての情報が含まれる。クラリアントの知的財産には、営業秘密、特許、商標および著作権ばかりでなく、事業計画、マーケティング計画、サービス計画および技術知識も含まれる。」
  • 本件誓約書の第1条には、「会社を退職した後においても、次に示される秘密情報及び開発物について、会社の許可なく、不正に開示又は不正に使用しないことを約束いたします。」、「「秘密情報」とは、会社又はその関連会社が所有又は使用している経済的に価値のあるすべての専有情報で、公に知られていないものをいう。」などと規定され、「秘密情報」に含まれるものの例として、「技術情報:技術、ノウハウ、営業秘密、方法、工程、技量、製品処方、デザイン、…」、「取引情報:…、取引価格、顧客リスト、製品計画・戦略、価格設定/原価情報、…」、「営業情報:サービスの価格設定、市場分析、競争者分析、広告戦略、…」等。
  • 本件ファイル1には、色、色相、カラーインデックス、種類、メーカー、製品名並びに各メーカーが顧客に対して販売している製品の数量、単価及び市場規模が記録されていること、〈2〉 本件ファイル2には、原告を含むグループ会社の全製品に係る出荷先、売上金額、売上数量、利益率等が記録されていること、〈3〉 本件ファイル3には、原告を含むグループ会社の地域別の売上げ及び利益の前年対比等が記録されていること、〈4〉 本件ファイル4には、原告を含むグループ会社の品番別の販売量、個別の単価、利益率等が記録されていること、〈5〉 本件ファイル5には、原告を含むグループ会社における5つの営業部門ごとの売上げ、販売分野、品目分類、販売顧客、担当者、出荷先、品目、数量、利益、利益率等が記録されていること、〈6〉 本件ファイル6には、原告の日本における顧客別、販売別及び商社別の過去3年間の実績及び今後1年間の販売予測に関するデータが記録されていることが認められる。
  • 営業秘密該当性が肯定

東京地判令和4年5月31日裁判所ウェブサイト掲載判例

  • 退職時誓約書1
     「今般、貴社を退職するにあたり、私は、下記の事項を遵守することを誓約いたします。
      ● 秘密保持の確認
      第1条 私は、在職時に従事した業務において知り得た貴社(子会社、関係会社を含む)が秘密として管理している以下の技術上・営業上の情報(以下「秘密情報」という)について、退職後においても、これらを他に開示、漏洩、または自ら使用しないことを誓約します。
      (1) 技術上の情報、知的財産権に関する情報
      (中略)
      (5) 前各号のほか、貴社が特に秘密保持対象として指定した情報
      第2条 私は、在籍中に入手した文書、資料、図面、写真、サンプル、磁気テープ、フロッピーディスク等業務に使用したものは、現状のまますべて返却するとともに、そのコピー及び関係資料等も返還し、一切保有していないことを誓約します。
      (中略)
      ● 損害賠償
      第7条 本誓約書の各条項に違反して、貴社の秘密情報を開示、漏えい又は使用した場合、法的な責任を負担するものであることを確認し、これにより貴社が被った一切の損害(社会的な信用失墜を含みます。)を賠償することを約束いたします。」
  • 退職時誓約書2
      「私は、貴社を退社するにあたり、2年間貴社の許可なく次の行為をしないことを誓約いたします。また、本誓約に違反し貴社に損害を与えた場合は責任をもって賠償いたします。
      1)貴社と競合関係にある事業者に就職又は役員に就任すること
      (中略)
      4)名目の如何を問わず、また、直接・間接を問わず、貴社との競業関係を発生させる活動を行うこと」
  • 事案としては、営業秘密該当性が否定

横浜地決令和4年3月15日労働経済判例速報2480号18頁

  • 私は、在籍中はもとより、退職(退任)した後も、在籍中に知り得た会社およびサロンの取引先(顧客)の経営上、技術上、営業上その他一切の情報(個人情報を含みます。以下「本件情報」といいます。)をサロンの業務外の目的に使用するなどの不正使用や、インターネット上でソーシャルネット等に無断での書き込み、本件情報を知る必要があるサロンの従業者以外の者に開示しないことはもとより、取扱いに関する指示を守り、これらの秘密を保持します。
  • 債権者は、平成28年7月以降、債務者に対し、情報秘密保持手当として毎月5000円ないし1万4000円を支給した。
  • 債務者は、本件店舗の顧客の氏名、住所、電話番号について、債権者との雇用契約終了後においても秘密保持義務を負う
  • 元美容師が退職前に、美容室の顧客情報を私用スマホに保存しており、削除したといってはいるが、利用等される可能性があるとされ、元使用者による仮処分申立て(債務者が就労又は運営する美容室等の顧客にする意図で別紙1記載の顧客に電話をかける、電子メールを送信するという営業活動及び別紙1記載の情報の全部又は一部について第三者に開示、提供をしてはならない)が認容された

知財高判令和1年8月7日金融・商事判例1579号40頁

  • アイリストの事案。
  • 入社時誓約書には、〈1〉被控訴人は、退職後2年間は、在職中に知り得た秘密情報を利用して、国分寺市内において競業行為は行わないこと(13項)、〈2〉秘密情報とは、在籍中に従事した業務において知り得た控訴人が秘密として管理している経営上重要な情報(経営に関する情報、営業に関する情報、技術に関する情報…顧客に関する情報等で会社が指定した情報)であること(10項)、〈3〉被控訴人は、秘密情報が控訴人に帰属することを確認し、控訴人に対して秘密情報が被控訴人に帰属する旨の主張をしないこと(12項)が記載されている
  • 被控訴人は、退職後、控訴人従業員から、顧客2名の顧客カルテの施術履歴が記載された裏面部分を撮影した写真を送信させた(施術履歴の入手)ことから、この行為が入社時合意に反するかが問題となる。
    就業規則における「従業員に関する情報(個人番号、特定個人情報を含む)、顧客に関する情報、会社の営業上の情報、商品についての機密情報あるいは同僚等の個人の権利に属する情報」との文言は、非常に広範で抽象的であり、このような包括的規定により具体的に施術履歴を秘密として指定したと解することはできない。
  • さらに、控訴人は、被控訴人ないし被告転職先店舗が、〈1〉控訴人が開発した美容液の効果を示した画像を使用したこと、〈2〉控訴人が購入して無料広告誌に掲載している画像と同じものを同雑誌に掲載したこと、〈3〉控訴人在職時に取得したまつげエクステの技術である「ボリュームラッシュ」と「アイシャンプー」を使用していること、〈4〉原告店舗が行っていた、予約前日に顧客に電話をして予約確認をするサービスを行っていること、〈5〉原告店舗で扱っている「ブラウンセーブル」と同じメニューを展開していること、〈6〉控訴人従業員から原告店舗の顧客の情報を入手したこと(上記アで検討した施術履歴の入手を除く。)、〈7〉「控訴人のエクステは質が悪い」「回転率を重視し、カウンセルの時間が短い、アフターカウンセリングがない」等と発言し、原告店舗の商材の特徴を漏えいしたこと、〈8〉「前のオーナーから信頼されず、辛くなって辞めた」等と発言し、控訴人の人事情報を漏えいしたことは、「秘密情報」を利用したものといえるから、これらの行為は入社時合意に反するものであり、被控訴人の営業を差し止める必要があると主張する。
      証拠及び弁論の全趣旨によれば、〈1〉について、被控訴人の退職後、被控訴人が在職中に業務に関連して撮影した写真(まつげ美容液の使用前及び使用後を比較したもの)が、被告転職先店舗のウェブサイトで利用されていたこと(甲21)、〈2〉について、被控訴人の退職後、広告雑誌において、原告店舗の宣伝に使用されている写真と同じ写真が被告転職先店舗の宣伝に使用されていたこと(甲20)が認められるが、これらの写真が秘密管理性を有するとは認められない。また、〈6〉について、上記アの施術履歴の入手のほかに、控訴人従業員から原告店舗の顧客の情報を入手した事実を認めるに足りる証拠はない。さらに、控訴人の主張するその余の事実について、秘密管理性を有する情報を利用した競業行為とはいえないことは明らかである。
      以上によれば、被控訴人が入社時合意に違反したとは認められないから、控訴人の入社時合意に基づく差止請求は理由がない。

ダイオーズサービシーズ事件
東京地判平成14年8月30日労働判例838号32頁

  • 被告は,ダイオーズ社に対し,同社の求めに応じ,「就業期間中は勿論のこと,事情があって貴社を退職した後にも貴社の業務に関わる重要な機密事項,特に『顧客の名簿及び取引内容に関わる事項』並びに『製品の製造過程,価格等に関わる事項』については一切他に漏らさないこと。」及び「事情があって貴社を退職した後,理由のいかんにかかわらず2年間は,在職時に担当したことのある営業地域(都道府県)並びにその隣接地域(都道府県)に在する同業他社(支店,営業所を含む)に就職をして,あるいは同地域にて同業の事業を起こして,貴社の顧客に対して営業活動を行ったり,代替したりしないこと。」旨記載した平成7年6月13日付け誓約書(以下「旧誓約書」という。)に署名押印して提出し,同社はこれを受領した。
  • 原告の「『顧客の名簿及び取引内容に関わる事項』並びに『製品の製造過程,価格等に関わる事項』」は,マット・モップ等の個別レンタル契約を経営基盤の一つにおいている原告にとっては,経営の根幹に関わる重要な情報であり,これを自由に開示・使用されれば,容易に競業他社の利益又は原告の不利益を生じさせ,原告の存立にも関わりかねないことになる点では特許権等に劣らない価値を有するものといえる。一方,被告は,原告の役員ではなかったけれども,埼玉ルートセンター所属の「ルートマン」として,埼玉県内のレンタル商品の配達,回収等の営業の最前線にいたのであり,「『顧客の名簿及び取引内容に関わる事項』並びに『製品の製造過程,価格等に関わる事項』」の(埼玉県の顧客に関する)内容を熟知し,その利用方法・重要性を十分認識している者として,秘密保持を義務付けられてもやむを得ない地位にあったといえる。
     このような事情を総合するときは,本件誓約書の定める秘密保持義務は,合理性を有するものと認められ,公序良俗に反せず無効とはいえないと解するのが相当である。
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