個人情報保護法2026年改正により「同意困難要件」は「同意を得ないことについて相当理由があるとき」へと変更され、実務上のハードルが低下する可能性が見込まれる。企業においては、医療研究や事故・災害対応における個人データの利活用の可能性が従来よりも高まることが想定される。もっとも、やみくもに利活用可能性が拡大されるものではなく、他のプライバシー侵害防止措置の整備が必要となると予想される。本記事では、同意困難要件にかかる法改正の概要と実務課題を整理し、社内規程・プロセス設計の見直しに役立つ情報の提供を企図している。

動画での概要解説
同意困難要件緩和の全体像(個人情報保護法2026年法改正)
現行法
- 現行法でも、一定の場合には同意なく以下が可能である
- 目的外利用
- 第三者提供
- 要配慮個人情報の取得
- 同意が不要となる例外事由の一つとして「同意困難要件」が存在する
法改正のポイント
- 要件の緩和
- 変更前:本人の同意を得ることが困難であるとき
- 変更後:本人の同意を得ないことについて相当の理由があるとき
同意困難要件の緩和とは何か
現行法上の要件
以下のいずれかに該当し、かつ本人の同意を得ることが困難であるときに、本人同意不要であった。
- 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合
- 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合
実務上の課題
- 「困難」の判断基準が極めて不明瞭
- ガイドライン例示に依存
- 連絡先不明
- 過大なコスト・時間
- ガイドライン例示に当てはまらないケースの判断が困難

法改正後
- 「困難」ではなく「相当理由」へ転換
- 「困難」より緩和される見込み
相当理由の具体像と判断枠組み

現時点の位置付け
- 法律案段階では抽象的な規定にとどまる
- 具体的内容はガイドライン等で明確化される見込み
想定される判断要素
以下の要素が示唆されている。
- プライバシー侵害防止措置(氏名等の削除、提供先との守秘義務契約の締結等)によって
- 本人の権利利益侵害が不当に侵害されるおそれがない など
- ガイドライン等である程度明確化される見込み
プライバシー侵害防止措置
- 氏名等の削除
- 提供先との守秘義務契約締結 など
よくある誤認
- プライバシー侵害防止措置の一つとして「氏名等の削除」が想定されている。
- この点に関し、「氏名を削除すれば個人情報ではない」のではないかという誤解がよくある
正しい理解
- 氏名削除のみでは個人情報該当性は否定できない場合が多い
- 真の匿名加工には高度な処理が必要
- 医療データは特に希少値や特異な経過・症状・背景等もあり、匿名加工が難しい
実務的含意
- 匿名加工の誤解は厳禁
- 相当理由構成の場合も、要件を満たしていることの整理が不可欠
医療分野における実務影響
主な対象
- 製薬企業
- 医療機器メーカー
- 医療機関
- 保険会社
- 自治体 など
想定シナリオ
- 既存データを用いた関連研究
- 当初同意範囲外の分析
- 追加同意取得が現実的でないケース(古いデータで連絡困難など)
法改正の効果
- 同意取得不能でなくてもデータ利活用の可能性
- 研究開発への期待
災害・事故対応における意義
現行法の誤解
- 災害時に個人情報が使えないという誤解。
- 災害時に個人情報保護法のせいで困るという誤解。
現行法
- 現行法でも例外規定は存在
- 災害時等は、「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」に該当する場合も多い
法改正の意義
- 現行法の要件に当てはまらない場合でも対応可
- 相当理由への緩和により判断のしやすさ向上
- 実務での活用促進
- 行政連携の円滑化
動画による詳細解説
実務対応チェックリスト
改正を前提に以下を見直す必要がある。
- 以下に該当する既存取扱いがあるか、新規取り扱い予定があるかの確認
- 要配慮個人情報の取得
- 個人情報の目的外利用
- 個人データの第三者提供
- 法的根拠の確認
- 相当理由構成に変更すべき場合があるかの確認
- 保護措置その他の要件確認(法改正情報を継続的にウォッチ)
- 保護措置の標準化・実践
- 契約(秘密保持等)の見直し
Q&A(実務対応)
Q1. 「相当理由」はどの程度のレベルが必要か
法律上は未確定であり、今後のガイドライン等を参照する必要がある。現時点では、現行法上の「同意困難」より緩和されると見込まれる。
Q2. 同意取得は不要になるのか
不要になるわけではない。同意取得可能であればそれは望ましい。同意がなくても適法な場合の整理・改正がなされたにすぎない。
Q3. 氏名削除で足りるのか
足りない。契約その他のプライバシー侵害防止措置等、他の要件を満たす必要がある。
Q4. 医療データ以外にも適用されるか
適用される。災害対応や事故対応など広範な場面で影響がある。
まとめ
個人情報保護法2026年改正は、「同意困難」要件を「相当理由」へ転換することで、実務上の判断負担を軽減するものである。特に医療分野ではデータ利活用の前進が期待される。一方で、保護措置の整備が不可欠となるため、適用可能性のある企業はガイドライン等の動向を踏まえた規程整備と運用設計を早期に進める必要がある。
なお、医療情報の利活用については、新法や特別法(次世代医療基盤法)の改正なども個人情報保護法とは別に想定されていることから、この情報も合わせてウォッチし、自社が行うデータ取扱いの適法化根拠を総合的に検討する必要がある。
以下、令和8年1月個人情報保護委員会事務局「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しについて」より抜粋。

執筆者プロフィール
弁護士 水町雅子(第二東京弁護士会、宮内・水町IT法律事務所所属)
SE(ITシステム開発)、コンサルティング等をシンクタンクにて行った後、弁護士登録。内閣官房・特定個人情報保護委員会にてマイナンバーの制度設計、ガイドライン作成、PIA制度化等を行う。
個人情報・ITに関して、首相官邸パーソナルデータに関する検討会参考人、内閣府「マイナンバーの利活用拡大のための検討タスクフォース」委員、こども家庭庁「こどもデータ連携の取組に関する検討会」委員、厚生労働省ITシステム等技術審査委員、東京都東京デジタルサービス会議構成員、東京都足立区情報公開・個人情報保護審議会委員、つくば市プライバシー影響評価制度検討懇話会委員、総務省・経産省・AMED実証事業等の支援等、実績豊富。
マイナンバー、個人情報、AI、医療情報、IT法務、企業法務、行政法務等に対応。書籍・論文執筆・講演のほか、日本経済新聞、朝日新聞、読売新聞、雑誌、TV等メディアコメント多数。
