結論として、2026年改正により市中病院も学術研究機関等に含まれる方向となり、研究に関する法的構成は大学病院と実質的に統一される見込みである。 本改正により、従来の公衆衛生例外を前提とした複雑な整理が軽減され、実務上の説明および運用は簡素化される。
医療機関、企業臨床研究部門、大学、学会担当者は、研究目的での個人データ取扱いについて、適用される法的枠組みを再整理する必要がある。
動画による全体解説
以下の動画で制度の全体像を確認できる。
結論:市中病院も学術研究例外に集約される
本改正の本質は、以下に集約される。
- 市中病院による研究が学術研究機関等に含まれる
- 大学病院と同一の法的構成が適用される
これにより、従来の例外構造の差異は解消される見込み。
個人情報保護法 学術研究機関等の現行定義
法第16条第8項における定義
現行法では、学術研究機関等とは「大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体又はそれらに属する者」を指す。
主たる目的要件の問題
ガイドラインで、学術研究を「主たる目的とすることが求められるため、以下のような整理となっていた。
- 大学病院・学会:該当する
- 市中病院:該当しない
個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編) |個人情報保護委員会個人情報保護委員会のホームページです。令和6年4月施行予定の個人情報の保護に関する法律のガイドライン通則編について掲載しています。「大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体」とは、国公立・私立大学、公益法人等の研究所等の学術研究を主たる目的として活動する機関や「学会」をいい、「それらに属する者」とは、国公立・私立大学の教員、公益法人等の研究所の研究員、学会の会員等をいう。(略)
一方で、当該機関が単に製品開発を目的としている場合は「学術研究を目的とする機関又は団体」には該当しないが、製品開発と学術研究の目的が併存している場合には、主たる目的により判断する。
個人情報保護法適用における市中病院の課題
大学病院との法的構造の相違
従来は以下のような差が存在していた。
- 大学病院:学術研究例外
- 市中病院:公衆衛生例外
実務上の混乱
この差異により、研究実施主体や研究者の異動等に応じて法的整理が変わるという問題があった。
個人情報保護法2026年改正 学術研究機関等の定義見直し
改正の方向性
本改正案では、市中病院も学術研究機関等に含める方向で定義変更がされている。
実務上の効果
- 研究に関する法的整理の一本化
- 説明コストの削減
- 共同研究者ごとの細かな法的構成の精査不要へ
個人情報保護法の学術研究適用除外の背景
憲法上の自由との関係
学問の自由との関係から、萎縮効果を避ける必要があり、従来は個人情報保護法の適用除外が認められていた。
他の適用除外主体(個人情報保護法第57条第1項)
- 放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関(報道を業として行う個人を含む。) 報道の用に供する目的
- 著述を業として行う者 著述の用に供する目的
- 宗教団体 宗教活動(これに付随する活動を含む。)の用に供する目的
- 政治団体 政治活動(これに付随する活動を含む。)の用に供する目的
GDPRとの関係と改正の経緯
越境移転規制
GDPRはEU域外への個人データ移転を制限する。
十分性認定との関係
日本は十分性認定を受けているため、EUとの個人データ移転が比較的実行しやすい環境下にある。
しかしながら、個人情報保護法が適用除外される領域では、十分性認定が使えないのではないかという課題があった。
学術研究分野の適用拡大
そのため、学術研究については、他の適用除外対象とは異なり、個人情報保護法を適用する方向に改正が行われた。
動画による補足解説
改正の背景と制度全体は以下の動画で詳細が確認可能。
解釈上の検討課題
定義拡張の違和感
医療機関を学術研究機関に包含することについては、文理解釈上の違和感が残る。
他分野
学術研究は医療に限られないため、本来は学術研究全体を踏まえた検討が必要である。
Q&A
Q1 市中病院の研究は今後すべて学術研究例外になるのか
学術研究例外が利用できるようになると見込まれるが、全研究が学術研究として認められるものではない。市中病院が学術研究機関等と認められるにすぎず、市中病院における研究が学術研究に該当するのか、その他の要件を満たすのかは別途検討が必要である。
Q2 従来の公衆衛生例外は不要になるのか
不要となるわけではない。公衆衛生例外も依然として利用できる。
状況に応じた適用関係の整理が必要である。
Q3 実務対応でまず何を確認すべきか
- ステークホルダーを洗い出し、ステークホルダーすべてが学術研究機関等に該当するかを検討する。
- その後、研究概要を整理し、学術研究に該当するか検討する。
- 個人情報保護法の適法化根拠として学術研究例外なのか目的内利用等なのかその他の例外規定なのかなどを検討する。
- 倫理指針対応を検討する。
まとめ
個人情報保護法2026年改正は、学術研究機関等の定義見直しを通じて、医療研究における法的整理を簡素化する方向である。 一方で、個別の研究ごとに、学術研究例外か否かは異なってくるので、個人情報保護法の適法化根拠と倫理指針対応は都度検討・確認する必要がある。
以下、令和8年1月個人情報保護委員会事務局「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しについて」より抜粋。

執筆者プロフィール
弁護士 水町雅子(第二東京弁護士会、宮内・水町IT法律事務所所属)
SE(ITシステム開発)、コンサルティング等をシンクタンクにて行った後、弁護士登録。内閣官房・特定個人情報保護委員会にてマイナンバーの制度設計、ガイドライン作成、PIA制度化等を行う。
個人情報・ITに関して、首相官邸パーソナルデータに関する検討会参考人、内閣府「マイナンバーの利活用拡大のための検討タスクフォース」委員、こども家庭庁「こどもデータ連携の取組に関する検討会」委員、厚生労働省ITシステム等技術審査委員、東京都東京デジタルサービス会議構成員、東京都足立区情報公開・個人情報保護審議会委員、つくば市プライバシー影響評価制度検討懇話会委員、総務省・経産省・AMED実証事業等の支援等、実績豊富。
マイナンバー、個人情報、AI、医療情報、IT法務、企業法務、行政法務等に対応。書籍・論文執筆・講演のほか、日本経済新聞、朝日新聞、読売新聞、雑誌、TV等メディアコメント多数。
