AI統計特例(個人情報保護法2026年改正)とは
個人情報保護法の2026年改正では、AI活用・統計作成に関する規制緩和が大きなテーマとして報じられています。しかし、見出しベースで理解したまま実務に落とすと、「想定よりも厳しい」というギャップが生じる可能性があります。特に、複数事業者間のデータ連携やAI学習を企画している企業においては、制度理解の精度がそのままリスク管理に直結します。
AI統計特例の基礎(原理原則)についてはすでに別動画を公表しておりますが、本記事では、それをアップデートし、改正法案を前提に実務上のポイントと注意点を整理します。
(AI統計特例について、YouTube動画をPart1に続きPart2もUPしています)。
AI統計特例の留意点
今回の改正はAI活用・統計作成の可能性を広げる一方で、次の点に留意が必要です。
- 「統計作成等目的」の範囲が不明確
- 条件付きの例外であり自由利用ではない
- 委員会規則・ガイドライン次第で実務負荷が変動する
改正の実務的な読み解きについては、動画でも詳しく整理しています。
2026年改正の位置づけ|AI活用促進が柱
今回の改正では、AI開発や統計作成におけるデータ利活用の促進が掲げられています。
報道ベースでは以下のように整理されています。
- AI開発のための個人情報活用の柔軟化
- 個人情報の取得・活用に関する規制緩和
- 統計目的利用の拡張
ただし、これはあくまで法律上の例外であり、各種要件を満たす必要がある点、そしてその各種要件は主に今後公表される委員会規則による点に注意が必要です。
実務上の核心|「統計作成等目的」の解釈
統計情報の位置づけ
統計情報は個人情報と対になる概念です。
- 個人の識別をしない
- 集約された情報
- 特定の個人との対応関係が排斥
このため、従来から個人情報とは異なる扱いがされてきて、非個人情報と分類されてきました。
問題は境界の曖昧さ
今回の改正でも、鍵となるのは「統計作成等目的」です。
しかし、実務上は以下の不確実性があります。
- 個人単位の追跡分析は含まれるか →おそらく含まれそう(ただの予想)
- 統計の範囲に収まるAI学習とはなにか
- 統計作成等目的で取り扱う「必要」の判断基準は何か
この点は法律では抽象的に規定され、具体的には委員会規則やガイドラインに委ねられています。
ケースで理解する|タクシーデータの統合分析
改正前の限界
複数タクシー会社の乗降履歴データを統合するケースでは、従来、次の制約がありました(委託構成の場合なので、必ずしもすべての場合において以下の通りではありません)。
- 生データの横断利用が困難
- 個人単位の突合が制限される
- 会社ごとの統計比較にとどまる
その結果、
- 分析精度が制限される
- AI学習に必要なデータ構造が作れない
という課題がありました。
※動画では話し忘れましたが、個人単位の突合が適法な場合でも、突合キーをどうするかという問題が別途あります。氏名・住所のハッシュ値なのか、サービスIDなのかなど。
2026年個人情報保護法改正後の可能性
改正により、以下の活用が可能となる余地があります。
- 複数事業者データの統合
- AI学習への利用
- 横断的な分析
ただし、条件付きです。
AI統計特例が利用可能とされる主な条件
法案上の主な条件は次のとおりです。
必要がある場合に限定
- 統計作成等目的で取り扱う必要がある場合に限定
公表義務
- 提供元・提供先双方が会社名、統計作成等の内容等を公表
合意の明確化
- 統計作成等特例に基づく提供である旨を明示して合意
行為規制
- 目的外利用の禁止
- 第三者提供の禁止
- 連鎖不可

コンプライアンス・課徴金
今回の制度は、第三者認証などに基づく制度ではありません。
- 統計目的かどうかを第三者が判断するわけでは必ずしもない
- 外部からの検証が困難(但し、公表義務があるため、外部の目は及ぶか)
- 実態としての目的逸脱が見えにくい
これは従来の個人情報保護制度と同様の構造ですが、AI活用により影響範囲が広がります。
一方で、今回の改正では課徴金制度が導入され、違反時の制裁措置が強化されています。
実務を左右するのは委員会規則・ガイドライン
重要なポイントは、制度の詳細が委員会規則に委ねられている点です。
条文では、統計作成等について次のように規定されています。
- 個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして
- 委員会規則で定めるもの

つまり、
- どのAI活用が許容されるか
- どの水準であれば適法か
- 現状の想定よりも厳しい条件が付されるか
は、今後の規則次第です。
このため現時点では、実務上このAI統計特例がどの程度利用されるのかの評価は困難です。
AI統計特例で誤解されやすいポイント
報道見出しだけを前提とすると、次の誤解が生じやすい状況です。
- 個人情報が自由に使えるようになる
- AI開発が大幅に容易になる
- 同意不要で広範利用が可能になる
しかし実際には、以下のようにも思えます。
- 条件付きの緩和
- 解釈負担
- 実務設計の重要性が高まる
あまり軽々に「AI活用が簡単に!」と現段階で思い込まずに、今後の動向をウォッチしていくことが重要です。
より詳細な背景と法案の読み方については、動画でも補足しています。
AI統計特例のQ&A(現時点版)
Q1. AI学習のためであれば個人情報は自由に利用できますか
結論として、自由には利用できません。
今回の改正は、以下の条件付きでの例外を定めるものです。
- 統計作成等目的であること
- 目的外利用や第三者提供が禁止されていること
- 公表や合意などの手続を満たすこと
したがって、「AI学習であれば許される」という理解は不正確です。
Q2. 「統計作成等目的」とは具体的にどこまで含まれますか
現時点では明確ではありません。
法案上は、
- 大量の情報の傾向や性質に係る情報(個人に関する情報であるものを除く。)を作成する行為
- 個人の権利利益を害するおそれが少ないもの
とされていますが、具体的な範囲は委員会規則に委ねられています。
そのため、AIモデルの学習がどこまで許容されるかは、今後のルールによって大きく変わる可能性があります。
Q3. 複数企業のデータを統合してAI分析することは可能になりますか
一定条件のもとで可能となる余地があります。
改正前は、複数企業の生データを統合して分析することには法的制約がありました。
改正後は、
- 統計作成等目的であること
- 条件を満たした提供・利用であること
を前提に、複数事業者のデータ統合が認められる可能性が考えられますが、委員会規則・ガイドラインを待つ必要があります。
AI統計特例のまとめ
2026年改正AI統計特例について、実務として押さえるべきポイントは以下のとおりです。
- ニュース見出しだけで判断しない
- 委員会規則をよく読み、実務設計する
- 「統計作成等」の解釈を厳密に整理する
- コンプライアンス体制を前提に運用する
制度理解の精度が、そのまま事業リスクに直結する領域だと思います。特に気を付けるべきは、個人情報を大量に保有している企業が、「『AI統計特例』があるから適法なんです」と言われて、軽々と個人情報を提供することです。個人情報保護法2026年改正の情報をきちんと追い、正確に理解し、個人情報の対象者(本人)に与えるリスク・自社のリスクを正しく認識し、検討することが必須です。
執筆者プロフィール
弁護士 水町雅子(第二東京弁護士会、宮内・水町IT法律事務所所属)
SE(ITシステム開発)、コンサルティング等をシンクタンクにて行った後、弁護士登録。内閣官房・特定個人情報保護委員会にてマイナンバーの制度設計、ガイドライン作成、PIA制度化等を行う。
個人情報・ITに関して、首相官邸パーソナルデータに関する検討会参考人、内閣府「マイナンバーの利活用拡大のための検討タスクフォース」委員、こども家庭庁「こどもデータ連携の取組に関する検討会」委員、厚生労働省ITシステム等技術審査委員、東京都東京デジタルサービス会議構成員、東京都足立区情報公開・個人情報保護審議会委員、つくば市プライバシー影響評価制度検討懇話会委員、総務省・経産省・AMED実証事業等の支援等、実績豊富。
マイナンバー、個人情報、AI、医療情報、IT法務、企業法務、行政法務等に対応。書籍・論文執筆・講演のほか、日本経済新聞、朝日新聞、読売新聞、雑誌、TV等メディアコメント多数。
